内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン) 内分泌かく乱作用を含む化学物質の分析、生体影響調査など当社にお任せください。
- 化学分析・リスク評価
1990年代後半に、ある種の化学物質が生物の体内でホルモンのように作用することにより、内分泌系をかく乱して生殖機能などに悪影響を与える可能性があることが顕在化し、以降、この内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題の解決に向けて、国内外において、さまざまな調査研究や国際的な取り組みなどが行われています。その成果として、多くの科学的知見が蓄積された一方で、野生生物にみられた異常との因果関係や生物体内に取り込まれた化学物質が内分泌かく乱作用を発現するメカニズムなど、いまだ多くの科学的な解明が必要な課題が残されていることも明らかになってきました。とくに内分泌かく乱物質は、世代を超えて人の健康や野生生物に影響を及ぼすことが考えられ、今後の化学物質管理においても、その解明は国際的に取り組むべき重要な課題の一つと認識されています。
国際的な取り組みとしては、2002年にWHO(世界保健機関)から内分泌かく乱物質に関する科学的知見を包括的に評価した報告書を公表しています。また、WHOとUNEP(国連環境計画)は、その後の10年間における研究の動向や成果をまとめた報告書(State-of-the-Science of Endocrine Disruptors)を2012年に公表しています。この中では、さまざまな研究の成果として、内分泌かく乱化学物質によると推察される証拠(科学的知見)が得られた事例として、ホッキョクグマやアザラシといった哺乳類から、爬虫類のワニ、魚類あるいは無脊椎動物の巻貝まで、さまざまな地域に生息する野生動物において、生殖器の奇形障害や産仔数の低下などが生じていることが報告されています。
一方、OECD(経済協力開発機構)では、1996年から、加盟国の協力の下で、化学物質の内分泌かく乱作用を調べるための試験および評価法の検討が進められ、魚類、両生類あるいは無脊椎動物などの生物を用いて生態系(野生生物)に対する影響を調べるため生態影響試験法のほか、培養細胞を用いる試験管内試験法(非生物試験法)などがガイドライン化されて公表されています。
また、これらの試験法を用いて化学物質の内分泌かく乱作用の評価を行う手順などを示したガイダンス文書も公表されています。このように試験法や評価法が整備されつつある中で、実際の化学物質を対象とした評価も進められています。たとえば、EU(欧州連合)では、2007年に発効したREACH規制(化学品の登録、評価、認可および制限に関する規則)に基づいて、生態系や健康に対する内分泌かく乱性を持つ懸念がある物質のリスト化が進められています。また、米国でも、1999年に策定された内分泌かく乱化学物質スクリーニングプログラムに基づいて、野生生物や人の健康に影響を及ぼす懸念がある化学物質を対象とした各種試験およびその結果に基づく評価が開始されています。
日本では、内分泌かく乱化学物質が社会的に問題となった1998年に、環境庁(当時)が「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」に優先的に調査研究を進める必要性が高い物質群としてリストアップされた67物質(2000年に65物質に修正)を中心に、それらの環境濃度や河川に生息する魚類に対する影響の把握など目的とした実態調査などを実施しています。
また、魚類を用いた生物試験などを実施し、4-ノニルフェノールと4-tert-オクチルフェノールについて環境濃度を考慮した濃度でメダカ(魚類)に対して内分泌かく乱作用を有することが強く推察されるとの結果が公表されました。その後、環境省は、新たにExTEND2005を策定、さらに5年後の2010年には「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応―EXTEND2010―」を取りまとめ、その対応方針のもとで、国際的な協力も推進しながら化学物質の内分泌かく乱作用についての評価手法の確立と評価の実施を進めています。
このように内分泌かく乱化学物質問題については、これまでに多くの科学的知見が得られていますが、生態系に対する影響などはいまだ十分に解明されておらず、今後も、さまざまな視点からの調査や研究あるいは試験や評価法の開発などを推進していくことが必要です。