プロジェクトストーリー 01
流量観測をD/X化へ
~リアルタイム流量観測システム~
- 国⼟保全
- 防災・環境・建設システム開発
2022.09.02
PROJECT
MEMBER
防災情報システム部 Y.M
近年、前線活動による長期降雨や台風の強大化、線状降水帯の頻発により洪水災害が多発しています。河川計画を策定する上で重要なデータとなる流量データを確実に観測することが求められている一方で、観測場所は市街地から遠い山奥にあり洪水時に流量観測員が現場にたどりつけない状況や、洪水中の暗い場所での観測作業を行うことから危険が伴い、少子高齢化の波を受けて観測員の担い手不足が深刻化し、流量観測そのものができないといった問題等が発生しています。
流量観測の方法には浮子測法やADCP法、電波流速計などがあり、現在の主流である浮子観測法は人がトレーサと呼ばれる目印を流して目視で一定区間の通過時間を計測し、流水の速さを計測するという古典的な手法をとっています。
このため、確実かつ安全に高水時の流量観測データを取得できる画期的な手法の開発が喫緊の課題でした。そこで私は、河川の監視カメラを活用し、水位と流速を同時に計測することにより、非接触で流量を観測可能となるシステムを開発しました。
この技術は、「画像解析技術を活用したリアルタイム流量観測システム【Dr.i-sensor】」と称し、NETIS技術(*1)(登録番号「QS-180042-A」)に登録しています。
*1):国土交通省が運営する「公共工事等における技術活用システム」
その仕組みは次のようなものです。まず橋脚や護岸などに特徴的な輝度変化(明るさの変化)が現れる位置を水面として自動判別し、画像から水位を自動計測します(水位計測手法は特許取得(*2)済み)。
次にSTIV手法(*3)で河川表面の波紋や浮遊物の動きから表面流速を瞬時に計測します。この表面流速に流速補正係数(通常は0.85)を乗じて断面の平均流速を算出します。
そして、カメラの映像から計測した水位と横断形状をもとに流量の断面積を求め、これに平均流速を掛け合わせることで流量を算出します。
このように、画像解析により流速を計測しリアルタイムで流量を算出できるため、これまで時間と手間がかかっていた流量観測を無人化し、短時間で安全かつ確実に計測できるようになったのです。
*2):特許番号第3907200号「環境情報観測装置」
*3):連続した画像(映像)から流速を算出する手法(Space-Time Image Velocimetry)
流量観測における課題は、充分な品質の映像がなければ解析をすることができないことでした。30fps(1秒間に30枚)の画像を保存できないと流速の解析精度が落ちるため、30fpsを確実に撮影できるカメラが必要です。市販のカメラでは夜間観測などを行う際、求めるレベルの映像情報が取得できないため、私は流量観測に特化した専用カメラを独自に開発することにしました。独自開発においては、部品や機械をあらゆるところから取り寄せてきて自分たちで組み込まなくてはならず、補正・調整にも高度な技術が求められました。
もうひとつの課題は「悪天候や夜間における映像データの収集」でした。降雨の強さや昼夜を問わず確実に波紋を撮影するための工夫が必要でした。夜間照明の光源については赤外線照明やLEDなど様々な機種で実験を行い、最適に波紋を捉えられるものを見つけ出しました。さらには、画像を鮮明化処理する機能の搭載にも苦戦しました。撮影した映像をソフト側の処理で鮮明にする技術を自社で開発し、なんとか完成にこぎつけることができました。これにより霧や降雨でも鮮明に波紋を捉えることができるようになったのです。
このシステムには、さらに可能性あると私は信じています。現在目指しているのは、河床変状状況を表面流速から推定する仕組みです。河川の表面流速は現時点の技術でも、ある程度把握することが可能となっていますが、今後は表面の流速をもとに、河床がどのようなメカニズムで変化しているのかを推定するプログラムの研究・開発に注力していきたいと考えています。そうすれば、より洪水災害に役立つ有益なデータが取得できるはずです。
また、AIとの連動を視野に入れた開発も進んでいます。現在はSTIVと呼ばれる手法で波紋を捉えて流速を計測していますが、データがさらに蓄積されることで、流速の波紋パターンが徐々に解明されていきます。その蓄積されたデータのもと、AIによる画像処理を行うことができれば、今よりも、もっと早くもっと確実な流速計測が行えるようになるでしょう。まだまだこのシステムは進化を続けます。
今回ご紹介した技術は、国土交通省をはじめ自治体等における流量観測業務や河川情報把握の技術革新を大きくリードすることに貢献できると考えます。このため今後も河川情報のDX化を先導し続ける技術者を私は目指していきます。