プロジェクトストーリー 08
より効率的に、より高精度に。
水中インフラ点検で社会を支えていく。
- 環境調査
- 交通・物流基盤
- 国⼟保全
2022.10.20
PROJECT
MEMBER
環境調査事業本部 技術開発室 T.F
様々な社会インフラがある中、水中部にも重要なインフラが張り巡らされていることはご存知でしょうか。私はその水中インフラの点検というフィールドで日々働いています。現在、水中インフラのほとんどは潜水士の目視で点検をしています。しかし少子高齢化や人口減少による労働力不足もあり潜水士の数は減少。その他にも深い場所や、流れの速い水域、濁水中などの環境下での確認作業の難しさや、大規模災害直後の環境における確認の難しさなどから、音響機器とロボティクスを組み合わせた点検技術に注目が集まっています。当社では水中の構造物の形状を3D点群データとして取得する音響機器「マルチビームソナー」と「水中3Dスキャナー」を導入しました。これらのおかげで水中環境に左右されることなく構造物全体を立体的に計測できるようになり、平時だけでなく大規模災害直後の被災状況の確認も可能となったのです。
音響機器による3D計測のメリットは他にも数多くあります。潜水士による点検では、横断図と平面図、損傷状況の写真の3つで解析するため、デジタルデータとして直接取り込むことができません。しかしインフラ用ロボットであれば、アウトプットはXYZ座標の位置情報を持つ3Dモデルのため、水中インフラの状況を客観的に評価できます。さらに3DCADやGISに直接取り込めるため、3Dでの設計や解析が容易になるのです。これは国土交通省が推進するインフラ分野のDXや水産庁の漁港長寿命化にも対応しています。
そこで私は水中3Dスキャナーの性能を最大限発揮するために人力で運搬できるサイズの小型水中ロボ(ROV)に搭載する技術の開発に着手しました。水中での機動性能を損なわないように「スキャナー」「スラスター」「フロート」の大きさや形状、取りつけ位置を何度も調整。その作業はとても難しく試行錯誤の繰り返しでしたが、なんとか完成へとこぎつけます。結果、水深200mまでの深所のピンスポットを、高精度かつ効率的に3D計測できるようになりました。さらに水中インフラが多く存在する水深15mまでの広い範囲を効率的に3D計測するために、水中3Dスキャナーをキャタピラー式の運搬機や調査船に搭載する仕組みも開発しました。これらの技術は国交省の“次世代社会インフラロボ”やその他の共同研究でも採用され、高い評価をいただくことができました。
私たちの水中可視化技術が成功したのは開発室の仲間が新しい物好きで、未知への挑戦に強いやりがいを感じるメンバーが多かったからだと思います。開発過程で意識しているのは、メンバーの提案を可能な限り拾い上げて技術開発の方向性を示し、技術論的なところはメンバーに忌憚なく意見・検討してもらうようにしている点。あとは開発した技術をどのようにお客様に認めていただくか、いかに実際の業務で活かせるように展開するか、受注や売上につなげられるかを考え続けます。技術は開発するだけではダメで、利益を出す、別の言い方をすれば社会実装されて初めて成功といえます。社会実装されるには客観的な検証・評価による“国のお墨つき”が必要だと私は考えています。
残念ながらマルチビームソナーや水中3Dスキャナなどの音響機器では、微細なヒビやサビを確認することはできません。そこで今、私は水中ドローンに注目しています。実際に導入・活用も進行中です。水中ドローンの技術が進めば、音響機器では発見できなかった問題点も発見できます。インフラ点検のさらなる高度化・効率化を進め、私たちがこの分野を牽引していきたいと強く願っています。
国土交通省の港湾施設や橋梁の水中部点検、水産庁の漁港長寿命化へのICT機器活用検討など、インフラ定期点検を取り巻く社会状況は大きく変わってきています。デジタル社会実現に向けて、インフラの目視による点検は2025年までに見直されていくことでしょう。水中可視化技術がより普及・活用されていくことを心から期待しています。