プロジェクトストーリー 04
水産業の未来に光を照らすICTスマート沿岸漁業
- 環境評価・環境計画
- 防災・環境・建設システム開発
2022.09.02
PROJECT
MEMBER
応用モデリング部 S.K
四方を海に囲まれた日本は、かつて世界一の漁業生産を誇る水産大国と言われていました。しかし近年、日本の漁業生産量は水産資源の変動や漁業就労者の減少などが原因で長期的に見て右肩下がり、減少の一途をたどっています。経営体の規模が小さい沿岸漁業ではこれらの影響を受けやすく、さらには燃料費の高騰により簡単に赤字へ転じてしまうような、脆弱な産業構造となっているのが現実です。それに加え、地球環境の変化や気候変動の影響もあって漁業者の皆さんからは「これまで獲れていた場所でぜんぜん獲れなくなった」「網に入ってくる魚種が変わってきてしまった」といった声が聞かれるようになり、ベテラン漁業者の長年の経験や勘も活かせなくなってきています。
こうした中、私たちは2017年度からICT技術を活用したスマート沿岸漁業を推進する事業に参画し、科学技術を使って操業の効率化を支援しています。
漁場と海況情報(水温・塩分・潮流)との間に密接な関係があることは古くから知られています。例えば好きな水温帯・水深帯が魚種によって異なることや潮目と呼ばれる水塊の境目に魚が集まることを、漁業者の方々は長年の経験で感覚的に理解しているのです。
それならば天気予報のようにコンピュータを使い、前もって海況情報が予測できれば事前に好漁場を推定することが可能となるのではないか?私たちはそう考えました。しかし、ことはそう簡単なものではありません。海洋の観測データは、陸上の観測データほど多く計測されていないため、予測精度に大きな課題があったのです。そこで私たちがサポートした事業では、日々沿岸域で操業されている漁業者の方々に観測データを集めていただき、そのデータをもとに予測の精度を向上させました。その予測結果を漁業者の方々のスマホやタブレットに配信するというシステムを開発したのです。
具体的に何を行ったのかをお話しします。まずは漁業者自身の観測データをその場で確認でき、かつ陸上のサーバーにデータを自動転送するアプリ、そして予測情報を表示させるアプリを開発しました。過酷な操業現場での観測や、操業中にアプリ操作をしてもらうことは思いのほか困難でしたが、できるだけ自動的に観測データが収集できるようアプリの改修を続けました。
システム導入初期の段階では観測データが不足していたこともあり予測精度が上がらず、漁業者の方々から厳しいお言葉をいただくことも。しかし今では「翌日の漁場を決めるのに役立っている」「網を入れるタイミングや水深がわかる」「このアプリは手放せない」といった嬉しい声もいただけるようになりました。
今回手がけた海況予測システムにより、操業時間を短縮して燃料費を節約することで生産性が向上するだけでなく、CO2排出量の削減にも貢献することとなりました。また経験や勘に基づく感覚的な知見をデータに基づく科学的知見に変えることで、今後はベテランから若手に技術を継承できるようなツールになる可能性も秘めています。水産業を持続可能なものにするためには、操業の効率化と資源管理の両立が必要。適切な資源管理を行うためには正確な資源把握を行って、それをもとに漁業者と研究機関や行政が共通理解を持って方策を検討するべきだと考えます。当社ではタブレット上で操作できる位置追従型のデジタル操業日誌アプリの開発も行っていて、前述の予測アプリと日誌アプリを融合させ、操業の効率化だけでなく正確な資源の可視化も進めています。