【新聞記事】For Future 先端技術 いであ 水中自律型無人探査機
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■洋上風力の“見張り番” 海底の障害物をレーザー検知 2000m8時間潜航
将来のグリーンエネルギーの一つとして期待される洋上風力発電―。実用時は洋上設備の点検を担う作業者の確保が不可欠なため、人手不足が課題になると想定される。この社会課題解決策の一つとして、いであは水中自律型無人探査機(AUV)の社会実装に取り組む。2030年までに独自開発したホバリング型AUV「YOUZAN」を使用した洋上風力発電施設の水中部保守点検サービス事業への参入を目指している。(八家宏太)
政府の総合海洋政策本部が決定した「AUVの社会実装に向けた戦略」では、30年までに実証実験などを実施してAUV産業を育成し、海外展開を可能にするため、官民で取り組みを推進する方針だ。この一環として公募されたAUV利用実証事業に、いであと戸田建設、東京海洋大学、九州工業大学による「AUVを用いた浮体式洋上風力発電施設の点検を実現するための実証試験」が採択された。
実証試験で使用されたのが、いであが開発したYOUZANだ。東京大学生産技術研究所で開発されたホバリング型AUV「TUNA-SAND」などをベースに、19年に民間商用化第1号機として運用が始まった。最大潜航深度は2000メートルで、最大8時間潜航可能で、実績としての潜航回数は100回を超える。海底の凹凸などの障害物を地形観測用レーザーや障害物検知ソナーなどで検知して自律的に回避しつつ、低速で細かく動きながら調査をすることが可能だ。
実証試験では長崎県五島市で稼働中の浮体式施設「はえんかぜ」の水中目視点検を行い、AUV位置制御システムなどの適用性を実証。9月に実施した実海域試験の成果を通じて、課題となっていた実海域向けのAUV制御システムの完成に近づいた。
既に洋上風力発電設備を運営する海外では、遠隔操作型無人潜水機(ROV)を設備点検に使うのが主流だが、AUVの開発も進んでいるという。その上でAUVによる実証試験などで社会実装を図る背景を峯岸宣遠常務執行役員は「無人化はキーワード。今開発しておかないと事業化が難しくなる」と語る。
いであは早くからAUV事業化に向けた開発や実証試験などを積み重ねてきた。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム第1期ではAUV技術の民間への技術移転に取り組み、国内最先端のAUV技術を持つ東大生産技術研究所で、AUVの開発や運用と社会実装に向けた技術を学んだ。その後、AUVや海洋機器の開発経験のある専門技術者なども加わり、外洋調査事業本部として体制整備を加速している。
AUVの想定できる適用範囲は幅広い。いであはAUVの運用から、データまでワンストップで提供でき、「(顧客が求める)アウトプットに応じたベストセッティングができるのが強み」(峯岸常務執行役員)。今後も技術力を生かし、事業化を通じてAUVの社会実装と社会課題解決を後押しする。